研究概要

研究課題名

国際比較のための価値・信頼・政治参加・民主主義指標の日本データ取得とその解析研究

研究分野:社会心理学

キーワード:社会指標、政治参加、社会関係資本、社会的ネットワーク、投票行動、国際比較

 

【研究の背景・目的】

世界規模、アジア規模の国際比較調査研究の進展が近年著しく、そのことによって社会科学では制度や文化が人々の価値・意見・行動に対していかなる規定力を持ち、また制度の変更がどのような変化を人々にもたらすかの研究が飛躍的に進展している。価値研究、民主化研究、政治参加・投票行動研究、社会関係資本研究の分野において、それらはほぼ同時進行である。

このことを背景に、本研究は2つの目的を持つ。第1に、世界規模レベル、アジア規模レベルの3つの国際比較データを、同一対象者をターゲットとした面接パネル調査を通じて5年の間に順次取得し、この面での日本の貢献を果たすのみならず、他国では実現していない主要比較調査間の関連性を解析する。ここで対象とする調査とは、世界価値観調査(WVS: World Values Survey)、アジアン・バロメータ調査(ABS: Asian Barometer Survey)、選挙制度の効果の国際比較調査(CSES: Comparative Study of Electoral Systems)である。

第2に、これら3つの調査を補完する形で、近年発展のめざましいソーシャル・ネットワーク調査をパネル調査に加え、合わせて4回の調査として、制度、文化、価値・ライフスタイル、信頼、ソーシャル・ネットワーク、社会・政治参加、民主主義に関するデータを複合的に同一パネルデータとして取得し、社会心理学の視点から日本人の政治・社会的な行動・信念の構図を、それぞれの関係性において明らかにする。

 

【研究の方法】

本研究は5年計画とする。これまでのプロジェクトの反省点を生かして、初年度を次年度以後の大規模な研究の準備に充て、以後、4波の同一人物に対する全国パネル調査とする。具体的な調査の実施年度は、次の通り。

・平成21(2009)年度 次年度以後大規模調査のための小規模な実験調査を実施

・平成22(2010)年度 世界価値観調査(WVS)第6波を実施

・平成23(2011)年度 アジアン・バロメータ調査(ABS)第3波を実施

・平成24(2012)年度 ソーシャル・ネットワーク調査を実施

・平成25(2013)年度 参院選時に選挙制度の効果の国際比較調査(CSES)第4波を実施

【期待される成果と意義】

社会科学における世界規模の指標・データを取得する国際比較の試みは、人々の行動や思考の背後にある、制度や文化のもたらす制約性を明らかにするとともに、そうした制約を越えて共通してみられる人間行動・信念の特徴と法則性の解明を可能にする。本研究が対象とする3調査はそれぞれ共通の調査項目を用いた全国調査による国際比較研究の実績を複数回持ち、その規模も大きく、社会科学の進歩に大いに貢献するものである。

本研究は、この貢献をさらに一歩進めようとするものである。その第1の貢献は日本データの特異性を生かすものである。日本が非西欧国家の中で唯一60年以上に渡る民主主義の経験を持つことから、西欧で形成された社会関係資本や社会・政治参加、民主主義、価値の理論が日本に適用可能かどうか検討することは、それら理論の通文化性、一般化可能性に関する重要なテストとなる。また、日本の民主主義や社会・政治参加経験、社会関係資本の構造が多様な文化的要素を持つアジアの中でも広く当てはまるかどうかは、アジア内の比較分析として重要である。

第2に、3つの調査が同一パネルデータとなるメリットを生かし、価値観とライフスタイル、信頼を含む社会関係資本、政治参加・民主主義、ソーシャル・ネットワーク調査の関係性についての根本的な洞察を加える総合的な研究を行う。

 

【当該研究課題と関連の深い論文・著書】

Ikeda, Ken’ichi & Kohno, Masaru (2008) Japanese Attitudes and Values toward Democracy. (In) Y.-H. Chu, L. Diamond, A.J. Nathan, and D.C. Shin (Eds.) How East Asians View Democracy, Columbia University Press, Pp.188-219. (Paper related to Asian Barometer)

Ikeda, Ken’ichi, Kobayashi, Tetsuro, & Hoshimoto, Maasa (2008) Does political participation make a difference? Electoral Studies, 27, 77-88.(Paper related to CSES)

Ikeda, Ken’ichi and Kobayashi, Tetsuro (2006) Risk Avoidance and Economic Value Orientation: Functioning of Post-materialist Values in the Pacific Rim Countries. (In) Dalton, Russel (Ed.) Citizens, Democracy and Markets around the Pacific Rim. Oxford University Press. Pp.201-222. (Paper related to WVS)

 

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